CASE / 2026.09.16

先月いちばん粗利が薄かった品番はどれか。社長からその答えが届いたのは、3日後でした。私たちが従業員28名の精密部品加工会社からAIの相談を受けた、最初の1時間の話です。この会社は架空で、実在しません。
最初の1時間で、社長に聞いたこと
社長の最初の言葉は「AIで何かできないかと思って」でした。どこに相談すればいいのか分からず、しばらく迷っていたそうです。困っていることを聞くと、少し考えてから「なんとなく忙しい」と返ってきます。求人を出しても応募が来ない話は、そのあとに出てきました。
相談先には、国の窓口もあります。中小企業庁によると、国は全国47都道府県に「よろず支援拠点」を置き、経営の相談に無料で何度でも応じています。ただ、窓口を選ぶより前に、AIで何をしたいのかが見えていない会社もあります。商工中金の2026年1月調査は、取引先の中小企業に生成AIの課題を聞いています。会社として導入も推奨もしていない2,522社では、42.0%が「具体的な活用場面が不明」を選びました。
だから、この日の1時間では、AIの話を後に回しました。先に聞いたのは、数字がどこにあって、誰が出せるかです。聞いた質問は6つです。どれも、ご自分の会社にそのまま当てられる質問です。
1つ目の質問に、社長はその場で答えられませんでした。相談が終わってから、受注の控えと在庫の表を行き来し、最後に営業へ電話をかけたそうです。メールで答えが届いたのは3日後でした。
この3日は、見積もりにかかる3日と同じ作りでした。値段の相場は、営業1人の頭の中にあります。どの設備がいつ空くかは、現場のホワイトボードに書いてあります。材料の在庫はExcelに、これまでの注文は電話のメモとFAXの控えにあります。見積もりを1枚返すたびに、営業はこの4か所を回ります。
数字は、この会社にもそろっています。欠けているのは、4か所を突き合わせる役です。その役を担えるのは営業の1人と社長だけで、2人とも自分の仕事の手を止めて回っています。値段を下げるか、急ぎの注文を受けるか。数字をまたぐ判断は、最後は社長のところに上がってきます。
この1時間は無料で、資料の用意もお願いしていません。終わりに、紙を1枚お渡ししました。書いたのは、数字の置き場所の4か所と、AIに渡せそうな仕事の候補です。候補には、見積もりに要る数字を1か所へ集める仕事と、品番ごとの粗利の集計を挙げています。
「なんとなく忙しい」は、この1時間で「見積もりを返すのに3日」に変わりました。困りごとが、日数で測れる言葉になったのです。ただ、4か所のどれから手をつければいいのかは、まだ分かりません。つなぐ順番によって、かかる金額も期間も変わるからです。
この回でやったこと
| この会社 | 精密部品の加工。従業員28名(事務2名・営業1名・現場25名) |
|---|---|
| 取引 | 得意先6社。うち2社で売上の7割 |
| やったこと | ご相談1時間(無料)。聞いた質問は6つ |
| お渡ししたもの | 数字の置き場所と、AIに渡せそうな仕事の候補を書いた紙1枚 |
| この回で動いたもの | まだありません |
この回のあと、こう変わりました
| いま | この回のあと |
|---|---|
| なんとなく忙しい | 見積もりを返すのに3日 |
| 数字はそろっている | 4か所に分かれて置いてある |
| AIで何かできないか | AIに渡せそうな仕事の候補が2つ |
あなたの会社なら、ここがこう変わります
| この会社では | あなたの会社なら |
|---|---|
| 先月いちばん粗利が薄かった品番を聞いた | いちばん儲からなかった仕事を、その場で言えるかどうかが分かります |
| 見積もりを返すまでの日数を数えた | お客様をいちばん待たせている返事が、日数で見えます |
| 数字の置き場所を4か所書き出した | 答えが遅れる理由を、どこに何が置いてあるかで説明できます |
AIやITの頼む先や製品を選ぶ情報が、十分にあるとは言えない中小企業
79.8%
中小企業基盤整備機構が2025年11月から12月に、中小企業へ聞いた調査の数字です。「適切なベンダーや製品を選定する情報が十分にある」という問いに、1,631社が答えています。「あまり当てはまらない」と「全く当てはまらない」を合わせると、79.8%でした。
確かめた出所
- 中小企業基盤整備機構/「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査(2026年3月)」調査結果のポイント。調査期間は2025年11月17日〜12月12日、全国の中小企業10,000社にWebで調査。図表8「適切なベンダーや製品を選定する情報が十分にある」(n=1,631)で、あまり当てはまらない46.7%と全く当てはまらない33.1%の計79.8% 出所を見る
- 商工組合中央金庫(商工中金)/「中小企業の生成AIの利用にかかる調査(2026年1月調査)」2026年3月31日公表。取引先の中小企業が対象で、有効回答3,892社。生成AI積極活用層以外(n=2,522)の課題で「具体的な活用場面が不明」が42.0% 出所を見る
- 中小企業庁/「経営全般に関するご相談」。よろず支援拠点は、全国47都道府県に国が設置した公的な経営相談窓口で、無料で何度でも相談に対応 出所を見る
この会社は架空で、実在しません。調査の数字と相談の窓口は、上の出所に書いた実在の資料から取っています。